民法(相続関係)改正のポイント
1 配偶者の居住権を保護するための方策(配偶者居住権の創設)
被相続人が遺言を残さずに死亡した場合、生存配偶者が居住している建物について無償で使用収益する権利(配偶者居住権)を取得するものとされました。
これまで、配偶者が居住していた不動産を遺産分割で取得すると、法定相続分の多くが居住用不動産となってしまい、他の相続財産を取得することができずに生活に困るということがありました。
今回の改正では、配偶者の居住用不動産を子供が遺産分割で取得して子供名義となっても、生存配偶者は引き続き無償で住み続けることができるようになりました。
2 夫婦間で行った居住用不動産の贈与を保護するための方策
婚姻期間20年以上の夫婦間において、居住用不動産を遺贈又は贈与した場合には、遺産の先渡し(特別受益)を受けたものと取り扱わなくてよいこととされました。
これまで、相続人の相続分を算定する場合、生前贈与や遺贈があると、遺産の先渡しを受けたものとみて相続分を計算するため、その分取得する財産額から差し引かれ、結果的に被相続人が贈与等を行った行為が意味のないものになってしまう場合がありました。
なお、生前の贈与財産が先渡しの対象とされるのは、婚姻又は養子縁組のための贈与、学資その他生計の資本としての贈与(特別受益)です。
この場合、被相続人が生前に先渡しの計算免除の意思表示をしていたときは、遺産分割時に先渡しの計算はされません(配偶者有利)が、そのためには遺言で意思表示をしておく必要がありました。
今後は、婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用不動産のみではありますが、遺言が無くても先渡し計算免除の意思表示があったものとして、配偶者がより多くの財産を取得することができるようになりました。
3 自筆証書遺言の方式緩和と遺言書の保管制度の新設
自筆証書遺言については、遺言者自身が全文を自筆で記載する必要がありました。
今回の改正では、財産目録についてはパソコンで作成したものでもよいし、登記事項証明情報の添付、通帳のコピーの添付でもよいこととされました。ただし、財産目録のページには、ページごとに署名・捺印が必要とされています。
また、自筆証書遺言について、法務局において遺言書の保管制度が創設されます。申請時には形式的な適合検査が行われ、保管された遺言書については、公正証書遺言と同様に検認が不要となります。
ただし、公正証書遺言であれば、遺言者の意思能力について公証人の確認が行われますので、後に遺言能力を問われる可能性はかなり低いと考えられますが、自筆証書遺言では法務局の形式審査のみですので、注意が必要です。
4 遺留分の算定方法の見直し
遺留分の基礎に算入される生前贈与の範囲が改められました。
贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限って遺留分の基礎に算入することとされていますが、相続人に対する贈与については、1年を超える場合であっても、すべて遺留分算定の基礎に算入されていました。
今回の改正により、相続人に対する贈与については、相続開始前10年以内にされたものに限って、かつ、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与に限って遺留分の基礎に算入されることになりました。
ただし、当事者双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合には、これまで同様に、遺留分減殺請求の対象になってしまいます。
生前贈与後10年を経過した後の相続開始であれば、遺留分減殺請求を受けることが無くなりますので、争族対策として、例えば贈与税の相続時精算課税制度を利用して、早めに贈与をしておきたいという方が増えるかもしれません。
5 遺留分減殺請求権の法的性格の見直し
遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができると改められ、遺留分減殺請求によって侵害額に相当する金銭債権が発生することになりました。
そのため、「減殺」という考え方が改められて、「遺留分侵害額請求権」となりました。
したがって、現物財産、例えば特定の不動産の返還を請求することはできません。
6 相続の効力等の見直し
遺言によって相続財産を取得した場合、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができなくなりました。
実務的な影響としては、例えば、相続登記を行わないうちに相続人のうちの1人に固有の借金があり、その債権者が被相続人名義の不動産を差し押さえたら、遺言によりその不動産を承継した相続人は権利を主張することができないということになってしまいます。
このような事態を避けるためには、できるだけ早く相続登記を行っておくことが必要です。
7 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
被相続人の親族(特別寄与者)が被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、財産の維持又は増加に貢献をした場合、特別寄与者が特別寄与料の請求をすることができるようになりました。
これまでは、相続人にのみ寄与分が認められていましたが、今後例えば長男の妻が療養看護等で貢献していた場合に特別寄与料として請求が可能になります。
ただし、立証上の問題、どの程度の特別寄与料が認められるのかなど、まだよく分からないのが実情です。家庭裁判所が最終判断をすることになりますので、特別寄与料を認めてもらうためには、貢献した実績を記録しておく、根拠となる資料を保管しておくことが必要と考えられます。
※法律の施行時期は、1については2020年4月、3の自筆証書遺言の方式緩和は2019年1月、3の遺言書保管制度の新設は2020年7月、それ以外は2019年7月となっています。
2018年10月